歯並びを悪くする癖(悪習癖)について

前回は上下の歯並びの前後位置が反対になってしまった、交差咬合or反対咬合についてお話しました。

今回は反対咬合だけでなくそれら不正咬合になってしまう、なりうる悪い癖についてお話します。この「癖の一つで歯の生えてる方向が変わるとか曲がるなんて冗談でしょ。」と思ったら大間違いです

歯一本から位置が狂ってきます。場合によってはアゴ全体で位置に変化が起こります。

歯が移動する最小荷重は17グラムです。

 

17グラムで歯は動く

成長期であるお子さんはどうでしょう?

身長が伸びている時の骨ってどんな状態でしょうか。

成人したヒトは骨は硬くなります。しかし子供の骨はまだまだ成長過程にあるので柔らかいのです。背が伸びるためには硬いままでは伸びにくいですよね。

ではアゴの骨はどう成長するのか。

下あごを触ってみましょう。いわゆる人中と呼ばれる鼻スジをそのまま下ろして顔の真ん中を通る線から下アゴのほうと前に向かって伸びていきます。前下方(ぜんかほう)に成長します。

下あごの骨の成長方向

では上のアゴのほうは?

横幅が広がり前のほうに広がります。どちらも歯が並ぶために前方向と方向の2軸以上の3次元的な方向で成長を遂げていきます。

赤ん坊のころの小さな骨がそのまま膨らむような大きさになるのではなく、すみっこを頂点として伸びる方向に大きくなると言った方がイメージしやすいでしょう。

上顎骨の成長方向

その伸び方にもピークの時期があります。

わらべ歌で「柱のキズは一昨年の~♪」という歌があります。いまも柱に身長を刻んでいるご家庭があるかもしれません。6歳ごろまでの成長は急速です。6歳までの身長の伸びも速い。顔の鼻から上にいたりましては6歳で80%までの完成となります。残りたったの20%なのです

骨の成長をあらわすグラフ

 

さて、この時期の歯並びとしてはどうなっていることが大事でしょうか。

下アゴの成長はこれから始まります。身長が伸びる10歳以上からさらに大きくなるのです。

上のアゴと下のアゴでは成長の時期に数年のタイムラグがあるのです。

上下のアゴが反対になっていると80%も完成した時点から上の前方への成長にあまり伸びることに期待が持てないことがわかります。

下のあごが小さく出っ歯気味になっている場合ですが、これはまだ成長の期待が持てます。(一部例を除きます)

骨の成長、身長の伸びには時期があります。一次スパート(生後から6歳まで)と2次スパート(10歳ころから開始)。これら2つのスパートがいつ始まるのか、それぞれ個人差がありますので時期を知った上で取り組まねばコントロールが難しくなります。

これに悪癖、悪習慣が加わるとどういうことになるかを例を挙げてお話します。

①アゴの伸びるべき時に伸ばすことを抑制するような癖

②成長を過度に助長するような癖

大きく分けて2つに分けます。

①の上と下のアゴで
②も上と下のアゴでそれぞれでいろんな癖があります。

 

①の伸びるべき時に伸ばすことを抑制する癖

代表的な「口唇を噛む」似たもので「ほっぺたの内側を噛む」癖も同じです。

「頬杖(ほおづえ)」は下アゴを成長抑制します。

頬杖(ほおづえ)

「うつむきで寝る」お子さんもありますね。

これも同じで、下あごが育ちません。左ばかり頬杖していると左から右へアゴが曲がります。大人になるまで続けていると前から見てもゆがんだ顔で成人してしまいます。

下アゴの真ん中を枕に付いてマンガを毎日読み続けた女の子は下アゴが引っ込んだままで何年も大好きなマンガを読んでいました。見事な出っ歯(上顎前突)になってしまいました。

「舌ベロを噛む」癖のお子さんは舌ベロが上と下の噛み合わせ歯の間にないと落ち着きがありません。

唾液を飲み込む動作一つでアゴを何度か上下させて飲み込んでいます。この動作は人が飲み込む時は口の中が陰圧にならないと「ゴクリ」と飲み込めない構造になっているからなのです。

上下の前歯が閉じても隙間が開いてしまった「開咬」という不正咬合になります。

開咬

開咬

開咬

舌ベロを噛む癖には理由があります。

赤ん坊のころの授乳の方法が原因の一つになってしまっているという話があります。(6ヶ月までに舌を使った嚥下能力が身につけられなかった。等)

 

「唇を吸う」癖は吸ったところが内側に引っ込みます。「ほっぺたを両方とも吸う」癖がある場合は歯列の並びがV字になります。アレルギー性鼻炎などを持ったお子さんもこれに近い歯並びになることが多いです。

 

 

「指しゃぶり」は噛んでいるところが崩れていきます。

指しゃぶり

特に前のほうで指を吸ったり、しゃぶっていると前歯が出てきます。当然の答えですが、この場合顎の骨が親指 の形に出ていることがあります。

指を入れて更に吸っているとほっぺたで前だけでなく横の歯を内側に倒してしま います。

 

更に舌の前歯は内側に倒れていきます。そこにあいた空洞が指一本分できるのです。5歳でこうなるんですから、子供の骨はどれだけ柔らかいか容易に理解できると

思います。

 

 ②の成長を過度に助長するような癖

代表的なもの、下アゴでこれが作用すること困ったことになります。

先回の上下反対咬合はこれがおおよそ原因になっていると考えています。6歳以上でこの癖を続けていると下顎前突の傾向が更に強くなり10歳以上ではもっとひどくなります。

下顎骨成長.

下アゴの前歯の付け根辺りをベロで押す癖は発見と同時にやめる様に。「やめて ね。」と言っても子供はそれが普通で過ごしているんです。簡単には止められません。

ここで家庭内での取り組みが重要になるのです。

これは大抵誰かさんの真似をしているはずです。

遺伝と思われているかもしれませんね。

でもお父さんが下顎前突だから、母親が下顎前突(ウケ口)だから?それもあるでしょう。じゃ下顎前突のお母さんの顔を毎日いつも見ているお子さんはお母さんが口を開けているのを見ているはずです。もしかしたら下アゴを押しているところを見ていたとしたら?遺伝だけで片付けるのは勿体無い。早いならその子に回避できうる未来が可能性として残っているかもしれません。 

 

実はこれは叢生を持った患者さんの口の中が親子でそっくりな歯並びになっていることが多いことから気が付きました。下の前歯だけの叢生で下顎が後退したお子さんの歯並びを心配したお母さん。

そのお母さんも虫歯の治療で以前から治療していました。同じタイプの不正咬合をしています。そして私と治療の話をしている時そのお母さん自ら唇を噛む癖を目の前でしっかりと披露してくれました。

面白いことに母親本人は全然気が付いていません。

しかし子供は見ています。テレビで「子供はみい~んな天才なんです。」と幼稚園の園長先生が仰っていました。その通りです。子供は先ず親の行動パターンを真似することから生きる方法を身につけていくのです。

一瞬一瞬が大事な真似(真似ぶ=学ぶ)する瞬間なのです。

貴方のお子様は天才なのです。天才の観察力をあなどってはいけません。一回二回ではないのです。何年も毎日毎日同じところを噛む、舌で押す、吸う、力を加える、抑える飲み込む嚥下は一日数百回あります。

その数百回全てが異常な動きをしていたとして何年も何年も改善しないまま大人になったらどうでしょうか。本当にそのアゴの形が成人になってもいい顔で成人できるでしょうか。家庭での取り組みは成功への鍵となります。

ぽか~んと口が開いている。「口呼吸」上のあごを拡げる拡大治療を行ったお子さんのなかには「鼻詰まりが消えたんですけど歯並びが良くなったからですか?」と聞かれることがあります。さて、それはどうでしょうね。「良かったですね。」 と言っておきます。

噛みあわせが原因か、鼻づまりが原因になっているのか、上顎の成長が遅い子供はなぜかほとんどがアレルギー性鼻炎と診断されていました。鼻炎で鼻が詰まって、診療室でいつも鼻をずるずるしています。

鼻で呼吸が出来ないので口で空気を吸う。仕方ない行動ですね。口を開けている=頬の筋肉が引っ張られている。だから引っ張られたところは内に引っ張られるからこの場合は上あごが内側に縮みます。

縮むってことは歯が並ぶスペースが消失しますので生える順の遅い歯が割を食うのです。最後に生えた歯などがまるで仲間はずれになったかのような歯並びになるのです。代表的なものは「八重歯」です。

八重歯

八重歯

鼻づまりの多いお子さんには八重歯になってしまわれるケースが非常に多い。

上の歯並び特に左右側切歯が並びきる大きさになったところくらいから鼻炎が消え始めます。よく噛めるようになるということは見えないところでもいいことがたくさんあるんだって本人が感じでくれます。

癖を列挙すればまだまだありますが上げたものがその代表で、派生系みたいなものです。大抵同じ経過を辿って同じような歯並びを呈してきます。長年成長を見続けていくと原因の7割以上は癖です。知っているか知らないかが大事です。

やめることが出来て、早い時期なら床矯正だけで治せます。早ければシンプルで費用も少なくてすみます。もしかしたら癖を止めるだけで治ります。これが理想なんです。

では癖を治すためにはどう対処しているか。次回は訓練だけで治ったシンプルなケースをご紹介します。大事なことは、早いうちから正しい知識を得てお子さんと一緒に発育・育成していくことだと考えます。

癖を辞めるための成功に導くのはお父さんお母さんにかかっています。 

「発育と歯並びの関係、悪い癖の及ぼす影響」を理解してください。

 

診療室でも助言していま す。

「顔・形の成功は子供の将来に少なからず影響するでしょう。」と。